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豚草―腐女子の誇り [番外編「~縁」(短編小説集)]

小説「縁」より、番外編読み切り短編
「蝉―僕のランク」
http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-05
※あらすじ→学校で下位ランクの『僕』、最下層女子『長山春香』に何を思う。
(学園もの、うむ、ちょい辛め、シリアスで重いけど救いはあるのじゃ)

「あだ名―中秋の名月」
http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-14-3
※あらすじ→白井月子が自分のランクを守るために犠牲にしたのは・・・
(テーマはイジメ)

・・・に続き、第3弾「豚草―腐女子の誇り」
中学時代、下位ランクだった長山春香、白井月子、そしてもう一人「モヤシ」こと八島麗華の話。彼女は、長山春香を犠牲にした中学時代をどう想い、今、どうしているのか。

前二作よりは、ちょっと軽妙・・・かも^^;
では以下本文。

   ・・・・・・・・・・

 ブタクサの花粉が飛散する季節。
 大きなマスクをした八島麗華は足早に帰宅する。

 マスクは正直うっとうしい。
 けど、マスク姿であれば化粧をしなくていいし、何しろ人様に顔を見せなくていい。

 ずっとマスクして暮らしたいくらいだ、と麗華は思う。
 何なら厳格なイスラム教徒にでもなって、頭から布を被り、一切、外に顔を晒さずに済ませたい。

 それに確かイスラム圏の保守的なところでは、自由恋愛は禁止されているんだっけ?
 今の日本のように「恋愛しろ」とうるさくないだけ、うらやましいとさえ思う。

 そう、麗華は自分の顔にコンプレックスを持っている。

 中学の頃は『モヤシ』と呼ばれていた。
 目も鼻も口も小さく地味で細長い顔。体つきもヒョロンとしていたことからつけられたあだ名だ。

 それでも大学生になり、いちおう世間がお勧めする恋愛をがんばってみようと思った。

 とりあえず化粧で盛ってみたところ、実際、男の子に誘われたこともあった。
 が、化粧を落としたら「詐欺だ」と言われ、即ふられ、撃沈した。

 たしかに化粧で別人になるのは、殿方を騙すようで、気が引ける。

 だから麗華の恋愛はこれ1回きりだ。
 いや、恋愛とも呼べないだろう。 

 この1回の経験で現実の男とは合わない、と麗華は恋活から早々に撤退した。

 本当は化粧もうっとうしい。しなくてすむなら、したくない。
 服も締め付けるものはイヤだし、靴もスニーカーが一番ラクでいい。

 だいたい、動物の世界ではオスのほうが美しさを見られ、メスから選ばれるというのに、人間の世界では女の方が美しさを求められるのは、どうしたことか。

 そんな理不尽な思いも抱いてしまう。

 普通の女の子たちは着飾りおしゃれをすることが楽しいようだが、麗華はそこに楽しさを感じなかった。
 なので恋活から撤退すると共に、そういった自分をキレイに見せる努力も放棄した。
 
 自由気ままに送れる大学生活はそこそこ楽しい。

 いや、大学生活ではなく、漫画アニメの二次創作生活と言ったほうが正しいか。
 冬コミの当選結果はまだだけど、今、本にするための画稿描きに夢中だ。

 麗華は中学時代から漫画を描き始め、今ではそこそこの腕を持つと自負している。

 ――けど彼女……長山さんは当時から絵が上手かったなあ。今も描いているのかしら。

 中二の時、クラスに長山春香という同級生がいたのだが、その長山さんに感化されて、麗華も本格的に絵を描くようになったのだ。

 それまでの麗華は気に入ったキャラの顔だけしか描いたことがなかった。
 でも長山さんは違った。
 キャラの全身を、しかもいろんなポーズをデッサンの狂いもなく、しかも赤ちゃんから老若男女を描き分けた。
 キャラだけではなく、背景もパースに沿って詳細に表現した。

 長山さんの画力に麗華は刺激を受けた。
 今の自分の原点はあの時代にあった。

 麗華はあの頃に思いを馳せる。

 ――もう一人たしか……白井さんという子もいて、三人でマンガやアニメの話で盛り上がったっけ。楽しかったなあ。

 けれど……その幸せは長くは続かなかった。

 長山さんがクラスでイジメにあうようになり、長山さんは孤立していった。
 自分たちは助けるどころか、長山さんを見放した。

 ――いえ、違う。そうではなく……自分たちが長山さんを孤立させ、それからイジメが始まった……。

 ここで麗華は記憶をフリーズさせる。

 あまり思い出したくない。

 安全な家の中、麗華はマスクを外し、思いっきり空気を吸い込む。
 やはりマスクは息苦しい。

 けど、外の世界はもっと息苦しい。

 マスクは麗華にとっての武装、自分を守ってくれるための鎧でもあるのだ。

 シャワーを浴び、家族との夕食もそこそこに、自分の部屋に上がり、ドアの鍵を閉め、画稿に取り組む。

 まずはラフスケッチだ。
 けれど家族には絶対に見せられない。

 何しろ麗華が描いているのはBL。
 美麗な男やカワイイ男子がくんずほぐれつ……の世界だ。

 そう、現実の男よりも、二次元の男に入れあげている。

 だけど、二次元の男に抱かれたいとか、二次元の男をダンナにしたいなどという、おかしな妄想は抱かない。
 二次元の男同士の打算のない美しい愛に、麗子は萌えているのだ。

 周りにはジャニーズとか、いわゆる三次元のアイドルに夢中な子がいるけれど、麗華に言わせれば、三次元などクソである。

 そういった女の子たちが見ている恋愛ものドラマも、どこが面白いんだか分からない。
 だって、女優さんたち、皆、カワイイ子ばかりだ。

 麗華はそこで共感できなくなる。
 イケメンの男の子と勝手にやれば? 自分には関係ないと白けてしまう。

 そこいらのいる普通の女の子たちって、選ばれた最上位の女優さんたちに自分を投影できるのかしら?

 三次元の恋愛ドラマは辛い。
 容姿が劣った者……ブスが登場しても、軽く扱われるから。

 ブスって、シリアスものでは「いないもの」とされていることが多く、いたとしても「どうでもいいキャラ」だ。
 ギャグの世界には存在するけど、シリアスの世界だと主役級として存在することはまずない。

 それは二次元の漫画やアニメも同じだけど、所詮、本物の人間とかけ離れた漫画顔・アニメ顔だ。
 そう、二次元は全く現実的でないからいいのだ。まるっきりの別世界。

 しかもBLであれば、女が出てこない。
 仮に女が登場しても、美麗なる男子たちは、女には目もくれない。
 例えその女が可愛くても、男の心を動かすことはない。
 女に興味のない男たちは、美人もブスも同等に扱うのだ。

 BLの世界は麗華を夢中にさせた。
 時間を忘れ、ラフ画に鉛筆を走らせていく。仕上げはデジタルでやるが、ラフはアナログだ。

 そのうち部屋に熱気がこもり出す。

 体も汗ばんでくる。
 仕方なく作業を中断し、窓を開けに立ち上がった。

 麗華の頭に現実が舞い戻る。
 
 ――ブタクサ花粉が心配だけど、夜だから大丈夫か。

 窓を目一杯開ける。
 気持ちのいい秋風が入ってきた。

 ここで不意に思う。

 ――ブタクサ=豚草って、ちょっとかわいそうな名前。

 けれど「麗華」と名付けられた自分もかわいそうだ。

 今更遅いが、やはり親にモンクを言いたい。
 はっきり言って、両親とも残念な顔立ちだ。当然、娘も残念になることを予想できただろうに。
 将来名前負けすることが分かっていながら、まさかギャグで名づけたのでは、とすら勘繰ってしまう。

 そぐわない名前は、からかいのネタにされ、悪けりゃイジメに発展する。
 なので麗華は決して友人らに下の名前を呼ばせなかった。
「麗華」なんて何の冗談かと自分で思う。

 中学時代に呼ばれていた「モヤシ」こそ自分にふさわしい。

 とまた、麗華の心に黒い影が差す。
 そこで凍った記憶が解け出し、過去がよみがえる。

 ――そう言えば、白井さんって太っていたっけ。だから「白ブ~」って皆から呼ばれていた。

 脳裏に白井月子の丸い顔が思い浮かんだ。

 豚草から白井さんを連想するなんて悪いなと思いつつも、今どうしているかな、と気になった。
 そして、あの長山さんも。

 ――そうだ、彼女につけられたあだ名は「ゾウさん」だった。

 その時、一陣の秋風が部屋に流れ込み、麗華はクシャミをする。

「やだ、やっぱりブタクサが飛んでいる?」
 すぐに窓を閉め、鍵をかける。

 それと共に記憶の扉も閉まり、白井月子と長山春香への思いが途切れたまま、彼女らのことは頭の片隅に追いやられた。

 さっきの風が幾分か部屋の熱気を洗い流してくれたようだ。
 そして思い出しかけた過去も流され、心の奥底に沈んだ。

 麗華は机に戻り、原稿描きの作業を再開する。
 世界に入り込み、現実が遠ざかる。

 この麗華の趣味は、一般のごく「普通とされる人たち」からは眉をひそめられるだろう。

 けど、他人の厳しい目を気にしても、一つもいいことがなかった。
 多くの人が求める価値観に合わせてみたものの、惨めな気持ちが覆うだけ。少しも楽しくない。

 普通の人たちの世界は自分には合わない。
 居場所はここにない。

 麗華は幻想の世界で遊ぶ。
 自分を解放できる唯一の世界。
 楽しいと本気で思える何物にも代えがたい場所だ。

 唯一、麗華がありのままの姿で現実世界でコミットできるのは、オタク仲間やコミケ仲間と一緒にいる時だ。

 ここではキャラへの愛、作画の腕のレベルが競われる。

 コミケで、自分の描いた原稿が載った本が売れ、お客さんから認められる嬉しさと言ったら、何物にも代えられない。
 唯一、自分の価値を確かめられる場所であり、こんな自分を認めてくれる場所だ。麗華には数人のファンもついていた。

 ――哂いたい人は哂えばいい。

 けど、そんな人に一言言いたい。赤の他人が義理でもなくお金を出して買ってくれるって、すごいことじゃないかしら。

 コミケにはプロの作家も参加している。
 プロと同じ土俵に立ち、お客さんの目に晒されるのだ。

 それでも普通の人には理解できないだろう。
 でも麗華はこの趣味に誇りを持っていた。

 麗華は鉛筆を走らせ、自分だけの世界を構築していく。

 やっと見つけた自分なりの幸福。
 ファンまでつき、麗華の価値を認めてくれる世界。

 普通の人たちは「あだ花」にしか思えないだろう。
 でも、それでいい。

 麗華は今、自分の時間を自由に生きていた。

 が、現在が幸せな分、また過去が顔を出す。

 ――教室でバカにされた自分たち三人組。
 あの時、白井さんと自分はあの教室の中でチンケな自尊心を護るために、長山さんを生贄に差し出した。

 その頃の自分は弱かった。
 自信なんて持てなかった。
 他人の目が気になり、ビクビクしていた。

 その後、三年の時にはクラスが替わってしまい、二人とは完全に離れてしまい、交流することはなかった。

 でも今、麗華は楽しく暮らしている。
 幸福を実感することが、あの時代への復讐だ。

 そして、それが今の自分にできる精一杯の贖罪だった。
 こんな自分でも幸せに生きている。
 だからきっと長山さんも白井さんも幸せになっているはず。

 麗華は鉛筆を動かし、目の前の紙の上に命を与えていく。
 やがて過去の思い出は薄れゆき、二次元のキャラクターが動き出す。

 夏が去り行き、夜が深く長くなっていく夜長月――麗華の幸せな時間が始まる。


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