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お彼岸―アラフォー女子の幸せ [番外編「~縁」(短編小説集)]

短編小説「縁」番外編4作め
「お彼岸―アラフォー女子の幸せ」

今までの3作とは違い、今度は自信家の独身アラフォー女子・小林和江が主人公。(本編「縁」にも主要キャラとして登場します)
知っておいて損はない情報もちょっとだけ入れてます。(お彼岸知識など)

こちらの3作もよろしく。

「蝉―僕のランク」http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-05
※あらすじ→学校で下位ランクの『僕』、最下層女子『長山春香』に何を思う。
学園もの、うむ、ちょい辛め、シリアスで重いけど救いはあるのじゃ。

「あだ名―中秋の名月」http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-14-3
※あらすじ→白井月子が自分のランクを守るために犠牲にしたのは・・・
テーマはイジメ。己の容姿に劣等感を抱える月子が犯した罪とは。

「豚草―腐女子の誇り」http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-19
※あらすじ→中学時代、下位ランクだった長山春香、白井月子、そしてもう一人「モヤシ」こと八島麗華の話。彼女は、長山春香を犠牲にした中学時代をどう想い、今、どうしているのか。


10月10日追加。

「血液型診断―栗の節句」http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-07
※あらすじ→若夫婦のほのぼのハートフルなお話。血液型のこと、重陽の節句(栗の節句)の情報ネタ入り。明るい話で軽く読めます。(3000字)

では、以下本文。

   ・・・

 お彼岸に入り、秋が深まりつつある今日この頃。

 ○○市役所に勤めるアラフォー独身の小林和江は、学生時代からつきあっている気のおける友人たちと女子会を開き、憂さを晴らしていた。

 メンバーの中の一人が彼氏に浮気されたらしく、別れを決意すべく背中を押してほしいとのことで、和江たちは快くその話に乗ったのだった。

 この歳になっての彼氏との別れは厳しいものもあるが、
 浮気をされたということは、それだけ軽く見られているということでもあり、自分を雑に扱うような相手とつきあっても、この先いいことなどない。
 さっさと見切りをつけ別れたほうがいいと、和江をはじめ友人らは背中を押して押して押しまくった。

 浮気は男の甲斐性? バカ言っちゃいけない。
「男が浮気するのは、自分の種をばらまくため」という説もどうやらこじつけらしい。

 精子をばらまくのは魚類などの下等生物がやることだ。
 もちろん子の面倒など見ない。
 ばらまいて終わり。放置だ。

 一方で子をきちんと育て、そのために伴侶と協力をするのが高等動物だ。

 高等になればなるほど、集団を形成し、群れや家族を作る。そうした社会性というものが進化の過程で培われていった。

 要するに浮気をする男は下等動物なのだ。

「下等動物だと分かってよかったじゃない。あなたに魚男なんて似合わない。魚とつきあいを続けても仕方ないじゃない」

 和江はそう発破をかけ、箸でつまんだ刺身をその友人の目の前でプラプラさせてから、口へ運び、頬張った。

 今日の集まりはシックな和食のお店で行われ、白ワインと新鮮な刺身の盛り合わせが絶品だ。

「そうよねっ」
「和江、いいこと言う~」

 和江の魚発言は、大いに場を盛り上げた。

 そう、自分たちは誇り高い女たちでもあるのだ。
 若さという価値がなくなりつつあるが、だからといって男どもに見下される謂れはない。

 ちなみにこの学生時代からの同期の友人らは和江と同じく独身か、結婚していても子どもを持たずバリバリ働いているか――要するに、ある程度の自由時間と経済力を持つ女性たちだ。

 子持ちの人たちとは、そういったところが合わなくなっていき、ついでに話題も合わなくなっていき、疎遠になった。

 職場関係の女性たちともそこそこ仲良くやっているつもりだが、世代もそれぞれ違うし、中には和江を嫌う者もいた。

 和江はけっこうな美人であるが、キツイ印象も与えてしまうようだ。
 実際、物事をズバズバはっきり言うし、トロトロしている人を見るとイラっとする。

 ま、合わない人間はどこにでもいるものだ。
 和江を遠巻きにする職場の連中は陰でこんなことを言っているらしい。

「小林主任って結婚してないんでしょ。理想が高そうだもんね」
「小林主任と結婚しても疲れそう。癒されないっていうか……それにもう40近いんでしょ。年齢的にもアウトじゃない」
「男はやっぱり若いコのほうがいいからね」
「満たされていないから性格がキツクなるのかも」
「ある意味、かわいそう?」
「幸せそうには見えないよね」
 
 和江は昔で言うお局様扱いされているようだ。

 そんな彼女らに和江は心の中で切って捨てる。
 年齢で人をアウトだと見下す傲慢さを持つ彼女たちの武器は「若さ」だけ。
 いずれ自分たちも歳をとることを知らないのか。

 そもそも和江が幸せなのか不幸なのか、和江にしか分からないことを話題にし、それで勝ち負けをはかろうとする浅はかさに呆れ果てる。

 ――下らない。

 それでも和江はこうも悟っていた。
 彼女たちは世間一般の価値観を映す鏡でもあるのだ。
 その鏡に映る自分はかわいそうに見えるようだ。いや、そうであってほしいのだろう。

 けれど和江自身は、たまに憂さがたまるものの労働環境が整っている安定的な職を得て、老後の資金を蓄えながら、さほどガマンせずに好きなものを買える経済力もあり、たまには海外旅行を楽しみ、自由な暮らしを満喫し、幸せである。

 今はちょっと切らしているけど、恋愛もそこそこに楽しんでいる。

 アラフォーがアウトですって? それは女だけじゃないのよ。
 男も38歳過ぎると精巣機能が衰え始め、男性ホルモンも下がり始めて、オス度が低下するの。
 だからお互い様。

 それに今日の和江は調子がいい。排卵日直前だ。

 排卵前は女性ホルモンであるエストロゲンが増加する。
 いわば女らしさが高まっていき、お肌はツヤツヤ、いい女度が増すのだ。

 もちろん排卵日をピークにそれは下がるのだが、次の排卵日に向けて再び復調する。
 その繰り返しだ。

 波に乗れる日はイケイケで、乗れない日は休めばいい。刺激を求め、機会があればいろいろな集まりに参加してみるが、無理して出会いを求めることなく、自然に任せている。

 和江は決して恋愛至上主義者ではない。
 結構、冷静に引いて見ているところもある。
 いいパートナーと巡り合えば結婚してもいいし、できなきゃできないで仕方ない、そう割り切っている。

 まずは相手ありきだ。
 恋愛ありき、結婚ありきではない。
 恋愛幻想にも結婚幻想にもはまらない。

 ――依存体質の子が、そういうのにはまるのよね。

 依存型は周りの空気に流されやすい。
 自分というものを持っていない人間。和江の一番苦手なタイプだ。

 そういう人間は世間の価値観と密着し、恋愛幻想や結婚幻想を押し付けてきて、それらが素晴らしいものと信じている。

 経験すれば、さほど素晴らしいものではないことを知りつつも、それを認めようとしない
 認めたら自己否定することになるから。

 けど物事には必ずマイナス面もあるわけで、100%素晴らしいものなどないのだ。

 というか、うまくいけばとてもいいもの――家族愛、夫婦愛、恋愛――は悪いほうへ転がると、人生をめちゃくちゃにしてしまうくらいの破壊力がある。
 そんなリスクをはらんでいる。

 よく聞くデートDV、夫婦間暴力・家庭内暴力。下手すりゃ犯罪に発展することもある。

 憎み、憎まれる関係となり、なのに簡単に逃げることもできない。
 だから余計に憎しみが増幅される。

 そこまでいかずとも……離婚、家庭崩壊など、世間がお勧めする生き方を目指したところで幸せが約束されているわけじゃない。

 海外では婚前契約を結ぶ人も多い。
 つまり離婚した場合についての財産分与などを決めてから、結婚するのだ。予め「離婚した場合」のことも考え、リスクに備える。式では永遠の愛を誓いながら――。

 理想と現実をうまく使い分ける人間が、幸せをつかむのかもしれない。

 そう考える和江を、常識人ぶった彼らは「冷たい」と言う。
 やれやれだ。今時、リスクを考えない生き方なんて怖くてできない。

 ただ理想=幻想を本気で信じられる彼らは、本当に恵まれた運のいい人たちなのかもしれない。
 きれいごとに裏切られたことがないのだろう。

 そういうことでは彼らは幸せ者だと、和江は素直に思う。

 人生勝ち負けではなく、幸せかどうかだ。

 そして、幸せかどうかは自分が感じるもので、他人があれこれ判定するものではないのだ。

「ちょっと~和江ったら聞いているの?」

 自分と大方同じ価値観を共有する友人らが、和江の顔を覗く。

 いけない、ついボーっとしてしまったようだ。
 和江は我に返り、苦笑する。

「ああ、ちょっと意識が彼岸に行っていたみたい」

 彼岸とは、あの世のことだ。心ここに有らずだったことをそう表現してみた。

「何それ」
 友人らには分かりにくかったようだ。

 和江は説明する。
 昼と夜の長さが均等になる春分と秋分のお彼岸シーズン(厳密に言えば春分の日と秋分の日)は『この世である此岸』と『あの世である彼岸』が通じ、魂が行き来できるのだ。

「へえ。この世は此岸って言うのか~」
 友人らも相槌を打つ。

 もともと『彼岸』は、欲や自尊心を捨て去った悟りの境地のことを言う。けど実際、そんな境地に達するのは難しい。
 しばらくは煩悩に満ちた現世である此岸で迷いながら生きることになりそうだ。でもそれもまた楽し。

 和江はこれといった不満もなく、そこそこに楽しく上々な日々を送っている。
 この生活を変化させてもいいというような男性はなかなか見つからないだろう。
 そんな現実も受け止めている。

 それから暫く恋バナや知人らの離婚話などが続いた。

 話が出尽くし、会話に間が空いた頃「さて、そろそろお開きにしますか」と声がかかり、会計を清算し、皆それぞれに帰り支度を始める。

 座が解け、場の温度が下がる。
 少々の寂しさが紛れ込むものの、日頃の憂さがたまっていた和江にとって命の洗濯ができた楽しいひと時だった。

 店を出ると、外は思いのほか涼しく、冷たい空気に思わず身震いする。
 けれど心はポカポカだった。

 友人らと別れ、和江は帰途に就く。家には母が待っている。
 濃くなってゆく夜に急き立てられながら、和江の足が速まった。

 実は今日ここに来る前にデパ地下に寄って、お土産にお萩を買っておいたのだ。
 和江は膨らんだカバンにそっと手をやる。

 食欲の秋――家に帰る頃には小腹が空きそうだ。
 太るのが心配といえば心配だけど、美味しい日本茶とお萩で、秋の夜長を過ごすのも悪くない。


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