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セクハラ恵方巻き [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・7編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前回の「セクハラ鏡餅」に続き、男性ホルモンが充実しまくっている肉食系・黒野先輩が起こすセクハラ騒動。
またもや静也も巻き込まれる。

今回は静也VSフェミニスト・みすず。
そして今回も・・・下らない戦いが勃発。

恵方巻きの驚くべき由来とは・・・
節分についてのミニ雑学もあり。(5000字)

では、以下本文。

   ・・・

 今日は立春の前日でもある節分の日。

 待ちに待ったお昼休みがやってきた。
 ○○市役所総務部広報課室で、四条静也はコンビニで買ってきた恵方巻き3本とお茶を机の上に置く。

「あら、四条君も恵方巻きにしたんだ」
 先輩女性職員の福田みすずも恵方巻きが2本入ったコンビニの袋をぶら下げていた。

 この日、外のお店ではどこもかしこも恵方巻きセールで盛り上がっている。

「せっかくだし、あえてコンビニ商法に乗るのもいいかなと」
 静也は恵方巻きの包装をはがしつつ、みすずに目をやった。

「商法?」

「恵方巻きっていう名前、セブンイレブンがつけて広めたらしいですよ」

「じゃあ、これって日本の昔からある風習じゃないの?」

「いや、関西方面の風習らしいですけど、歴史は浅くて、大阪の海苔店が始めたって聞きますよ。名前も丸かぶり寿司、恵方寿司、吉方巻きといろいろあったようです」

「なあんだ……」
 ちょっと白けた顔をしてみずす先輩は席に着いた。

「ま、おいしけりゃいいじゃないですか。一本丸ごと食べれば、運がいただけるってことで」
 そう言いながら、静也は恵方巻きにかぶりつく。

「そうね。丸かじりって豪快な食べ方も嫌いじゃないしね」
 みすず先輩も静也に倣い、口へ恵方巻きを持っていく。

 と、その時――

「やめて~、もっとやさしく……」
 机の向こう側からイヤラシイ声がした。

 もう確認しなくても分かる。黒野先輩だ。
 相変わらず、男性ホルモンが染み出ているような暑苦しくムンムンとしたオーラを放っている。

 そんな黒野を、みすずは恵方巻きを口にくわえたまま、にらみつけた。
 セクハラの王者・黒野は、みすずにとって敵以外何ものでもない。

 が、みすずの鋭い視線も何のその、黒野先輩はいつになくニヤついている。
 静也は不穏な空気を感じ、先輩たちに背中を向け、恵方巻きを口に押し込んだ。

 だが黒野は、2本目の恵方巻きを手にした静也を引きずり込む。
「静也も知っているんだろ。恵方巻きの本当の由来を」

「んぐ……さ……さあ~」
 恵方巻きを飲み込みながら、静也は顔を横に振った。

「理沙ちんもお昼、恵方巻きなのかなあ」
「……そうだと思いますが」

 ちなみに理沙は静也の妻である。ここ○○市役所に夫婦してお勤めしているが、課が違うので静也とは別室だ。

 黒野先輩の『ニヤつき度』はさらに高くなった。目が三日月のように細くなり、口角がこれでもかというくらいに上がっている。

「お前のは恵方巻きクラスなのか?」

「せ、先輩っ……」

「今夜は、理沙ちんに本物の恵方巻きを……このスケベ」

 どっちがスケベなんだか……相変わらず下品だな……と思ったが、静也は無視し、恵方巻きを食べ終えることに専念した。

 だが、これにみすず先輩が反応した。
「一体、何の話よ? 四条君、説明してよ」

「さあ、よく分かりません」
 なぜ、オレに話を振る……と思いつつ静也は3本目の恵方巻きをつかんだ。

 そんな静也に代わって黒野がズバリと答えた。
「恵方巻きはな、男のアレなんだよ。だから普通の太巻きみたいに切らないで、一本まるごと頬張るんだ」

 恵方巻きをくわえたまま、みすずの顔が能面のように無表情になった。

 それとは対照的に得意満面の黒野は、さらに言い放つ。

「つまり『アレ』に見立てた巻きずしを節分の日に遊女に頬張らせた……そういうプレイが大阪の花街で流行っていたんだぜ。恵方巻きは花魁遊びに由来しているんだよ」

 そう言って黒野先輩はみすずに笑いかけた。
「実にイヤラシイ食べ方だよな~」

 恵方巻きをお茶で流し込んだみすずはついに吠えた。
「セクハラよ。これはセクハラだわっ」

 静也はもう一本残った恵方巻きとお茶を手に、この部屋から退散しようとした。
 ――そういう論争はお二人でどうぞ。オレを巻き込まないでくれ。

 だが、みすず先輩は見逃してはくれなかった。

「四条君、知っていたのね。恵方巻きの由来」
「い、いや……」
「知っていて、私の食べる姿を横目で楽しんでいたんでしょ」

 どうしてそうなる?……静也はみすずの失礼な物言いに憮然とした。

「後で課長に報告するからね」
 気炎を上げながら、みすずはさらに恵方巻きにかぶりつく。
 その食べっぷりはなかなかのもので、まるで男を食い尽くそうとするかのようだった。

 が、さすがの静也もこれには黙っていられなかった。
「言いがかりにも程があります。オレがそんな不埒な想像をして楽しんでいたという証拠はありますか?」

「恵方巻きの由来を知っていたくせに、とぼけていたのが何よりの証拠よ」

「おいしく食べたいから、本当かどうか分からない下らない由来を無視しただけです」

「何とでも言えるわ」

「仮に想像していたら、男のオレは恵方巻きなんて食えません」

 そこで黒野がすかさず入ってきた。
「男同士で……って場合もありうるな」

 が、黒野を無視し、みすずにターゲットを絞った静也は続ける。
「これがセクハラになるなら、恵方巻きを売っている全国のお店に抗議すべきでしょ。オレをセクハラ扱いするなら、そうするべきです」

「……」
 みすずは反論の言葉を探すも、見つからず、そのまま黙り込む。

 机の向こう側でファイティングポーズで拳を振り回している黒野を尻目に、静也はみすずにさらなる追い討ちをかけた。

「コンビニで『恵方巻きに対するセクハラ抗議』が通じるとは思いません。そんなことしたら単なるクレーマーです。市役所の職員がそんなことしたら問題になるかもしれませんね。それでも自信を持ってコンビニを訴えることができますか?」

 ここでやめても良かったが、一度、理屈スイッチが入ってしまった静也は止まらない。

「福田さんは僕をセクハラ扱いし、課長に報告すると脅しました。僕は福田さんからパワハラを受けたということです」

「脅すとか、パワハラとかっておおげさな……そもそも私、あなたの上司じゃないし」
 みすず先輩の声がしぼむ。

「いえ、後輩である僕は、あなたより弱い立場の人間です。コンビニには抗議しようとしないあなたは、弱い立場の僕には理不尽な言いがかりをつけました。つまり弱い者イジメをしたんです」

 ピシャリと静也は言い返す。一人称を『オレ』から『僕』に変えていた。
 こういった問題では、相手より弱い立場であることを主張し、被害者になったほうが勝ちだ。

「セクハラとパワハラ、どっちの罪が重いんだろうなあ」
 拳を振り回すのをやめた黒野は、のんびりとした調子で茶々を入れてきた。

 元はといえば、あんたが仕掛けたんだろうが……静也は横目で黒野をにらみつける。

「ま、ここらでやめておこうぜ。福田もちょっとお前に当たっただけだ。あまり女を責めるのは気が引けるしよ。矛を収めようぜ」

 黒野は静也をとりなそうとしたが、静也は理屈を通す。

「その考えこそ女性を下に見ていませんか。それを女性差別というんです。男女平等、男女同権を訴えながら、男が女を責めるのはかわいそうだ、とするのはおかしいです」

 そう言って黒野を一瞥した後、静也はみすずのほうへ向き直る。

「福田さんは、心身ともに休めるはずだった昼休みを僕から奪ったのです」

 そうだ、おかげでせっかくの恵方巻きを味わえなかった。口に押し込んで早食いをし、それをただただお茶で飲み込み、勿体ない食べ方をしてしまった。実害を被ったのだ。

「……ごめんなさい」
 ついにみすずは静也に頭を下げた。

「では、こちらも矛を収めます。二度とこういったことはしないてくださいね」
 反省してくれれば、こちらもそれ以上は言うことはない。
 静也の完膚なき勝利だ。 

 けど黒野はこんなことを言ってきた。
「お前、そんな性格でよく結婚できたな……理沙ちんが懐のデカい女なのかもしれないけど」

「何で、いきなり結婚の話になるんですか?」
 静也はワケが分からなかった。

「お前、友だち、少ないだろ?」
「……」

 というか友だちいません――静也は心の中で答える。

「ま、お前みたいな男を伴侶にしてくれた理沙を大事にしてやれよ」

 いい話でまとめようとした黒野だったが、静也は苦言を呈することを忘れなかった。

「先輩もマナーに反します。カレーを食べている時に下痢の話をするのと一緒ですよ」
「んも~、小せえな~」

 黒野は苦笑し、肩をすくめただけだった。

 そんな二人のやりとりをボンヤリ見ていたみすずは食べる気が失せたのか、残った恵方巻きを仕舞った。

   ・・・

「へえ、そんなことがあったんだ」

 仕事を終えた静也は理沙と待ち合わせ、帰途に就く。
 靴に包まれている足のつま先が冷たい。吐く息は白く、相変わらずの寒さだ。

「でも私も知らなかったな。恵方巻きの由来」

「ま、切らずに一本丸のままでというのは、いろいろ説があるらしい。縁が切れないように、運を逃さないように、とか」

「うん、そっちの説のほうがいいよね」

 そう話しながら、理沙は手をポンっと打った。
「ねえ、晩ご飯も恵方巻きにしない? お昼、ちゃんと味わえなかったんでしょ」

「そうだな、恵方巻きは節分の晩に食べる、という説もあるらしいしな」

「コンビニじゃなくてさ、デパ地下で高級な恵方巻き買って、ちょっと贅沢しようよ」

 二人は賑やかな繁華街に出て、デパ地下に向かった。
 その間、空いてきたお腹が鳴るのをごまかすように、静也は節分についてのうんちくを垂れる。

「節分は年に4回あるんだ。節分の意味は季節を分けるってことで、春夏秋冬の区切りの日はすべて節分になるんだ」

「へえ」 

「昔、立春を一年の始まりとしていた時代もあったそうだ。だから正月を新春って呼ぶんだろうな。で、その立春の前の日は『大晦日(おおみそか)』になるわけだ。それで、この日に一年の厄を払うってことで、厄除けに『豆まき』をするようになったんだ」

「なるほどね」

「だから地方によっては節分の日に蕎麦を食べるところもあるようだな」

「年越し蕎麦ってことか。じゃ、今夜は恵方巻きにお蕎麦をつけようか」

「いいね」

 ということで自宅に帰った静也と理沙は、デパ地下で買ったちょっと高級な恵方巻きと、温め直した昨日の残りの南瓜の煮つけ、チャッチャと茹でたお蕎麦を並べ、食卓を囲んだ。

「いただきます」

 まだ温まっていない部屋で、練りワサビをつゆに溶かし、刻んだネギを入れ、湯気が上り立つ蕎麦をずるずる音を立てながら食べる。

「はあ~サイコ―」
 二人とも思わずため息が漏れる。

 体が温まり、人心地ついた後、具だくさんの高級恵方巻きに手を出す。
 恵方巻きの海苔のふくよかな香りが食欲を誘う。一口かじるともう止まらなかった。
 寿司飯と具と海苔のコンビネーションがたまらない。

「ん~、さすがにおいしいね」
「ん……」

 口の中では恵方巻きが躍っていて、まともに返事ができない。
 玄米茶で一息つき、2本目の恵方巻きを口に運び、ガリをお供に食べ進めていく。
 南瓜の煮つけもまあまあだ。

「そんなに押し込まないで……ちゃんと噛まなきゃダメよ」
「ん……」

 外の世界は未だ冷ややかな冬が支配しているけど、二人の心の中はまさに春。

 ――縁が切れないようにと願いを込めた『切れていない恵方巻き』――
 その恵方巻きをお互い、二人の縁がずっと続くようにと丸かじりしたのだった。






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