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本編「~縁」(短編連作小説集) ブログトップ

聖夜(短編物語・本編「縁」スタート) [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説・本編「縁」スタート。
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

寒くなってきましたね。

街もクリスマスシーズンとなり、恋活も激化するのでしょうか。今年のイブは土曜日ですから。世間や恋愛指南者たちは煽りまくるでしょうね。

だいたい、誰がクリスマスは恋人と過ごすものと決めたのか・・・(実はそのお話は23編目の小林主任のお話で触れます)

エッセイでも恋愛・恋活・婚活テーマで語ってきましたが、何だかそういうのは疲れたという人、多いのでは。

人間の品定め、競争、戦略・駆け引きも楽しい人はいるだろうけど、そういったことに嫌気がさし、恋愛とは距離を置き、気の合う友だちや家族と一緒にのんびり平和に行きたい人も多いのでは、と。
あるいは一人で気楽に自由気ままに過ごすのもあり。

「君の名は。」のように運命の赤い糸で結ばれた人がいればいいけれど、現実はそんな人はいないわけで・・・けど、だからこそ「いたらいいよな」という物語に惹かれるのかもしれません。

それに「運命の赤い糸」とまではいかずとも、「結ばれたのは縁があったからこそ」と言える人は現実にもいるのでは。

このお話はそういう話でもあります。

今回「縁」第1編は、舞台は12月から始まります。
四条静也と理沙の若夫婦のことを紹介しながら、彼らが過ごすほのぼの聖夜を物語ります。(7300字)

では以下本文。

   ・・・

 ビル風が吹き荒ぶ凍りつくような真冬の夜。だが行き交う人々の表情は明るい。
 街は色とりどりの光が躍り、楽しげな空気に満ちていた。

 今夜はクリスマス・イブ。

 ここ○○市役所も、午後7時を過ぎると残業している職員はごくわずかとなり、四条静也(シジョウセイヤ)のいる総務部広報課室もスカスカで、静也を含め二人しかいなかった。

 仕事を終えた静也は雑多な机の上を片付け、帰り支度を始める。
 さっき確認したら、生活部市民課にいる妻の理沙から「仕事が終わった」というメールが届いていた。急がねば。

「お先に失礼します」

 と退室しようと机から離れようとしたところで、まだ仕事が残っているらしい黒野先輩がパソコンから目を離し、声をかけてきた。

「静也(セイヤ)、聖夜は理沙ちゃんと性夜だな」

 静也は最初、何を言われているのか分からず、首を傾げる。
 ――セイヤ、セイヤはリサちゃんとセイヤだなってどういうことだ?

 暫し考え込んだが、当てはまりそうな漢字に変換してみて、ようやく意味が分かった。
 ――下品な先輩らしい、しょーもないダジャレだ……。

 この下らないオヤジギャグを飛ばした黒野先輩は、男性ホルモンが過剰に分泌されているのでは、と思ってしまうほど見た目も性格も暑苦しい大男で、静也より5つ年上の先輩だ。

 己の全てを男性ホルモンに支配されているのだろう先輩、さぞかしあっちのほうも盛んなのだろう……
 と思ったところでハッとする。

 ――おっと、オレとしたことが『あっちも盛ん』などと下品なことを……先輩に感化されつつあるのか。

 静也は身震いした。

「いいよな。まだ新婚気分で夫婦ラブラブか? オレなんて職場の女の子たちから『女の敵』扱いされているっていうのによ」

 黒野先輩は『セクハラ男』として、この課だけではなく役所内でも大変有名だった。
 ここ○○市役所の職員で黒野を知らぬ者などいない。

 静也は生温かい目を向け、広報課室にたった一人となった先輩に頭を下げる。
「じゃ、お先に」

「性なる夜を」
 先輩はわざわざ席から立ち上がり、腰を振って見送ってくれた。

 そんな黒野が振りまく暑苦しいオーラから逃げるように、静也は妻と待ち合わせている職員通用口へ向かう。

 エレベータを降り、薄暗いフロアを足早に抜けると、すでに見慣れた人影が待っていた。

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大晦日の願いごと [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・2編目。
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前話「聖夜」 から1週間後の大晦日。
四条静也と理沙がこの若さ(21歳)で健康にこだわる理由、お節の意味が語られます。
2750字・短い話なのでサクッと読めます。

では以下本文。

   ・・・

 シンシンと体に染み入るように冷え込んできた年末。

 勤め先の市役所は休みに入っており、静也と理沙は二人そろって寝坊をしてしまった。
 布団から離れがたく、うつらうつらと二度寝して、起きたのはお昼近くだった。

 理沙は慌ててご飯を炊き、昨日の残りのカレーを温め、それを朝食兼昼食とした。

 大晦日なのにカレーかあ。何か情緒に欠けるよなあ……。
 と横目で見ていた静也だったが、カレーの匂いを嗅いでいるうちに食欲がそそられ
「やっぱりカレーっていいよな」と思い直す。

「あ、そうだ……ラッキョウ」
 これを忘れてはならないとばかりに、冷蔵庫からラッキョウ漬けが入っているタッパーを取り出す。

 甘酸っぱいラッキョウ漬けは辛口カレーのお供に最高だ。
 その上、ラッキョウはビタミンB1の吸収を助け、疲労回復を助け、スタミナアップさせてくれる健康食材だ。
 殺菌効果もあるので昔から薬用植物としても広く利用されている。

 静也は、理沙がよそってくれたカレーにラッキョウを乗せ、かき込む。

 玉ねぎと人参がたっぷり入った栄養満点のカレーだ。
 一晩寝かせ、熟成されているから、昨日より旨い。
 おまけに辛み成分が体を温めてくれる。

「食べ終わったら、掃除お願いね~」
 理沙がお願いという形の命令を静也に下す。

 こだわり屋で凝り性な静也は掃除係には最適だ。
 普段、見過ごしてしまう汚れもしっかり取ってくれる。

 カレーを頬張っている静也は首を縦に振る。
 食べ終えたら、二人で分担して新年を迎える準備だ。

   ・・・

 ――静也は7歳で母を病気で、8歳で父を交通事故で亡くした。

 静也にとって、小さい頃、家族で過ごしたお正月の記憶ははるか彼方に行ってしまっていたが……
 家族で年越しそばを食べたこと、元日に食べるお雑煮や栗きんとんがおいしかったことは、何となく覚えていた。

 そんな静也から「年越し蕎麦とお雑煮と栗きんとん、これだけは譲れないっ」と念仏のように何度も聞かされていた理沙は、まずお節の用意にとりかかる。

 お節は大晦日にお供えし、年が明けてから「神様からのお下がり」としていただく習慣がある。

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煩悩の年越し [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・3編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前話「大晦日の願いごと」の続きといえば続き。同じ大晦日の晩から年越しにかけてのお話。
お茶の健康ネタ、柚子風呂ネタ、年越し蕎麦ネタを織り交ぜつつ、ほのぼのハートフルな若夫婦の物語。(3450字)

いや、ほのぼのというか・・・聖夜と同じ展開となり、静也と理沙の二人は煩悩に満ちた年を越すのだった。
以下本文。

   ・・・

 ピリピリとした痺れるような寒さに覆われた大晦日の夜。

 そんな外界から結界を張ったかのような暖かい部屋の中で、静也と理沙は夕食後のほうじ茶をすすり、和んでいた。

 普通の日本茶は、食事でせっかく摂取した鉄分を壊してしまうので、食後に飲むお茶はほうじ茶か玄米茶と決めている。夏は冷やした麦茶だ。

 鉄分の不足は貧血はもちろん、不眠にもつながり、健康を害する。睡眠不足は体の免疫力を弱めてしまう。
 だが、ほうじ茶や玄米茶、麦茶なら鉄分を壊さない。

 ちなみに普通の日本茶は、おやつの後に楽しむようにしている。

 そんな静也と理沙の今年最後の晩ご飯は、健康長寿を願った海老料理だった。

 ま、日本の大晦日に食べる料理としてはいまいち情緒に欠ける『エビチリ』だが――
 静也は満足であった。

 しばし食休みをした後、静也は夕飯の片付けと皿洗いを始め、理沙に風呂に入るよう勧めた。
 家事はどちらか一方に負担がいかないよう、できるだけ公平を心掛けている。

 理沙はありがたく先にお風呂をいただくことにした。

 今日は柚子湯。

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元日のお雑煮 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・4編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前話「煩悩の年越し」の続きといえば続き。ほのぼのハートフルな若夫婦の物語。
お雑煮のもっちりしたお餅に理沙の太ももを重ね合わせる静也。相変わらずである。(2250字)
以下本文。

   ・・・

 澄んだ空気が張りつめ、キンと冷えた正月元日。
 時はお昼近く、障子が淡く輝き、やわらかな光を届けていた。

「明けまして……おめでとう」

 布団の中からモソモソと上半身だけ起き上がった理沙がちょっと照れながら、隣にいる静也に挨拶した。

「うん……おめでとう」

 眠気まなこの静也は、昨日の『清く正しい煩悩のもとに行われた年越し』を思い起こす。

 正月早々すっかり寝坊をしてしまったが、『清く正しい煩悩のもとに行われた年越し』で夫婦の絆がよりいっそう深まり、悪くない一年の始まりだと満面の笑みを浮かべる。

「朝食兼昼食として、お雑煮でも食べる?」
「ああ」

 起き出した静也は布団をたたみ、ついでに理沙の分もたたんで押し入れに仕舞う。
 布団の片付けは静也の仕事だ。

 布団から抜け出した理沙は暖房を入れ、手早く着替えてキッチンに立つ。

 しばらくすると静也のところにも、ほんのりといい匂いがしてきた。
「お雑煮かあ」
 いろんな具が入ったスープの中に、とろりとした白いお餅を思い浮かべる。
 と同時に、去年のお正月のことが思い起こされた。

   ・・・
 
 まだ新婚ホヤホヤだった当時――

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年賀状―人間関係って難しい [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・5編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前話「元日のお雑煮」の続きといえば続き。
若夫婦・四条静也と理沙のほのぼの物語なのだけど・・・彼らの黒い過去(思い出)が少しだけ垣間見えてくる。(4200字)

以下本文。

   ・・・

 元日の昼下がり。
 食事を終えた理沙は部屋を出て、自宅マンション1階エントランスにある郵便受けから年賀状を取り出し、部屋に戻った。
 20枚くらい届いているようだ。

「あ、着たか」
 食事の後片付けをしていた静也も、理沙の持ってきた年賀状に目をやる「。

「どれどれ」
 食卓の上で年賀状を広げ、一枚一枚眺める。
 ほとんど職場関係者からだ。
 黒野先輩からも届いていた。デッカイ字で「あけましておめでとう。今年もよろしく」とハガキいっぱいに描かれている。

「先輩……らしいよね」
 理沙は笑いながらも、夫婦二人で年賀状20枚弱というのは多いのか少ないのか気になった。 

 ふと思う。そういえば学生時代の友だち、児童養護施設の友だちとは疎遠になったなと。
 いや……彼らは『友だち』ではなく、単なる知人だった。

 ――脳裏に封じ込めていた記憶の扉が開く。

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セクハラ鏡餅 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・6編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

男性ホルモンが充実しまくっている肉食系・黒野先輩が起こすセクハラ騒動。
四条静也も巻き込まれるものの・・・まさに表現の自由と女性の人権の戦い。
し、しかし・・・少々下らない・・・かも。

鏡餅についてのプチ知識もありますぞ。(5000字)

では、以下本文。

   ・・・

「あの鏡餅はセクハラですっ」

 お正月休みが終わり、通常勤務に入った○○市役所総務部広報課では……昼休み、またもや黒野先輩が女性職員から訴えられていた。

 四条静也は覚めた目で、黒野先輩の机を見つめる。
 そこに大きめの『干しブドウ』を乗せた鏡餅が二つ並べられ……
 ご丁寧にも、干しブドウの下には、丸く切ったピンク色の紙が置かれていた。

 ――あれはどう見ても女性の胸だよな……。
 ピンク色の丸い紙は乳輪を表しているのだろう。
 相変わらず下品で、問題になることをあえてやっている気がする。

「何で干しブドウを乗せちゃいけないんだ? 何で二つ並べたらいけないんだ? それをやると何でセクハラなんだ? これは芸術的表現に過ぎない」

 黒野はいけしゃあしゃあとほざいていた。

「この鏡餅はオレの作品だ。それを撤去しろというのは『表現の自由』の侵害だ。よってオレは撤去を拒否する。少なくとも鏡開きの日まで」

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セクハラ恵方巻き [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・7編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前回の「セクハラ鏡餅」に続き、男性ホルモンが充実しまくっている肉食系・黒野先輩が起こすセクハラ騒動。
またもや静也も巻き込まれる。

今回は静也VSフェミニスト・みすず。
そして今回も・・・下らない戦いが勃発。

恵方巻きの驚くべき由来とは・・・
節分についてのミニ雑学もあり。(5000字)

では、以下本文。

   ・・・

 今日は立春の前日でもある節分の日。

 待ちに待ったお昼休みがやってきた。
 ○○市役所総務部広報課室で、四条静也はコンビニで買ってきた恵方巻き3本とお茶を机の上に置く。

「あら、四条君も恵方巻きにしたんだ」
 先輩女性職員の福田みすずも恵方巻きが2本入ったコンビニの袋をぶら下げていた。

 この日、外のお店ではどこもかしこも恵方巻きセールで盛り上がっている。

「せっかくだし、あえてコンビニ商法に乗るのもいいかなと」
 静也は恵方巻きの包装をはがしつつ、みすずに目をやった。

「商法?」

「恵方巻きっていう名前、セブンイレブンがつけて広めたらしいですよ」

「じゃあ、これって日本の昔からある風習じゃないの?」

「いや、関西方面の風習らしいですけど、歴史は浅くて、大阪の海苔店が始めたって聞きますよ。名前も丸かぶり寿司、恵方寿司、吉方巻きといろいろあったようです」

「なあんだ……」
 ちょっと白けた顔をしてみずす先輩は席に着いた。

「ま、おいしけりゃいいじゃないですか。一本丸ごと食べれば、運がいただけるってことで」
 そう言いながら、静也は恵方巻きにかぶりつく。

「そうね。丸かじりって豪快な食べ方も嫌いじゃないしね」
 みすず先輩も静也に倣い、口へ恵方巻きを持っていく。

 と、その時――

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悩ましき桃の節句 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・8編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

理沙の妊娠が判明。けれど単純に喜べず・・・。

そして番外編の「お彼岸―アラフォー女子の幸せ」で主人公だった小林主任が登場。
※「お彼岸~」はここをどうぞ。http://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-09-24-1

マタハラ問題勃発で、静也VS小林主任。
そこに、なんとあのフェミニスト・みすずが静也に加勢。

ひな祭りの由来とは・・・
桃の節句についてのミニ雑学もあり。(5500字)

では、以下本文。

   ・・・

 梅の花が香る3月初日の休日。

 今までの寒さはどこへやら。
 淡い陽光が気持ちいいお昼時、理沙は自宅のキッチンで、ひな祭りの定番料理――ちらし寿司とハマグリのお吸い物を作っていた。夫の静也のリクエストでもある。

 その静也は何かしら手伝おうと理沙の周りをウロウロしていた。そして時折、理沙のお腹に目をやる。
 そう、実は理沙の中に新しい縁が宿っているのだ。

   ・・・

 理沙が妊娠していることが分かったのは、あの節分の日から数日後のこと。

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嫁き遅れの雛人形 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・9編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

今回は特別編。フェミニスト・福田みすずのお話。
なぜ彼女はフェミニズムに目覚めたのか。(6450字)

では、以下本文。

   ・・・

 未だ居残ろうとする冬とやわらかい風を運ぶ春が交差する3月半ばの休日。

 福田みすずは久しぶりに実家へ帰った。
 門塀にある『福田』という表札を見やり、昔ながらの古びた木造の日本家屋と対峙しながら、玄関まで続く敷石を歩く。

 玄関前でため息と一緒に一呼吸。
「ただいま~」という言葉と共に、ギシギシと音を鳴らしながら引き戸を開ける。

「おかえり」
 台所から母の声がするも出てくる気配はない。今、手が離せないのだろう。

 みすずは靴を脱ぎ、上り框に足を乗せる。
 板張りの廊下を歩き、その時ハタと気づく。もう自分の部屋はなく、そこは妹のさりなとその娘が使っているんだっけ、と。

 とりあえず客間になっている和室に入ると、妹が雛人形を片付けているところだった。

「え、まだ仕舞ってなかったんだ。お母さん、よく何も言わなかったね」

 ――段飾りの雛人形。
 昔は母親がよく飾ったが、みすずが高校生くらいになると、雛人形は押し入れの奥深くにずっと仕舞われたまま、ここ何年も日の目を見なかった。飾っても誰もそれほど喜ばず、スペースを大きく取る雛壇は邪魔でしかなかった。
 それを今年、実家に戻ってきた妹が飾ったようだ。

「こういう片付けって、つい後回しになっちゃうのよね。お嫁に行き遅れたらごめんね~」
 さりなは笑いながら、傍で遊んでいる3歳になる娘を見やり、そのついでにみすずにも意味ありげな視線を送る。

 すかさず、みすずは遠慮のない言葉で返す。
「出戻りが何言ってんのよ」

 妹のさりなは離婚し、今は実家で暮らしている。娘の親権はさりなが勝ち取った。
 離婚の原因は夫の浮気だそうだが、専業主婦の自分を見下す態度もガマンできなかったという。夫への信頼感も皆無となり、もうパートナーとしてやっていけないと結論を下した。

「出戻りって女性に対する差別発言じゃない? お姉ちゃんらしくないね」

 さりなの皮肉もなかなかのものだが、みすずも負けてない。

「嫁き遅れたら申し訳ないっていう考えこそ、女性差別よ」

「あら、男も女も結婚は早くするに越したことないでしょ。子どもを持つんならね。育てるのに体力いるし、卵子や精子も若いほうがいいんだから」

「精子もそうなの?」

「うん、自閉症とかそっち系のリスクが歳とった精子だと高くなるそうよ」

「へええ」
 みすずの頭に、妻が妊娠中だという四条静也のことが浮かんだ。

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桜づくしのお花見 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・10編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

劇中の季節は春。若夫婦・四条静也と理沙カップルの、桜づくしの休日をご覧あれ。
桜餅に桜茶、桜湯、お花見(由来、歴史)に関するプチ雑学満載。(7500字)

桜の季節が待ち遠しいですね。
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では、以下本文。

   ・・・

 日本人の心をくすぐる4月初旬。
 ふんわりとした春の日差しに包まれ、薄桃色の世界となる桜の季節。

「八分咲きってところだね。今度のお休みの日、ちょうど見頃だね」

 通勤途中、薄雲がかかる淡い水色の空の下。
 薄桃色のトンネルになりつつある桜並木の遊歩道を歩きながら、理沙は夫の静也に話しかける。
 今日も夫婦二人そろって仲良く出勤だ。

「すぐに散っちゃうのが……ちょっとな」
 安定志向の静也にとって儚すぎる桜は好きじゃなかった。

 花は散るものだけど、桜の場合は特に儚いと感じる。
 一斉に散ってしまい、あっという間に終わってしまうから、そう思うのだろうか。

 自分が愛するものは、いつまでも変わりなく、変化があるとしても徐々にゆっくりであってほしい。
 だから「あっという間」「突然」「いきなり」「消えてしまう」「なくなってしまう」というのは静也の趣味に合わなかった。

 たぶんそれは――小さい頃『突然、家族を失った経験』から来るのかもしれない……。

 それなのに、理沙はお腹に手をやりながらこんなことを言い出した。
「10月生まれになる予定だけどさ、もし女の子だったら『さくら』って名前もいいかなって。違う漢字を当ててさ」

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鯉づくしの端午の節句 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・11編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

劇中の季節は初夏。ゴールデンウィークを地味に過ごす若夫婦・四条静也と理沙カップル。
端午の節句(由来、歴史)、柏餅、ちまき、鯉のぼり、菖蒲湯に関するプチ雑学満載。(6500字)

では、以下本文。

   ・・・

 待ちに待ったゴールデンウィーク。
 風景が鮮やかな色をまとい出す季節。

 静也と理沙の予定は特にない。
 静也は人ごみが好きではないし、理沙も妊娠中とあって、連休はまったりと家で過ごしていた。

 連休1日目と2日目はたまっていた家事をやり、近所の図書館に行ったり、DVDを観たり、いつもの休日と変わり映えなく――

 3日目の今日も寝坊をし、遅い朝食を摂っているところだ。


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梅雨の休日と和菓子 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・12編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

静也と理沙の中学時代と二人の縁のお話。
なぜ理沙が健康食にこだわるのかも明かされる。
ほか、和菓子の日、夏越しの祓のうんちく、梅雨の季節にピッタリなドクダミ湯を紹介します。(5500字)

では、以下本文。

   ・・・

 水無月。
 梅雨入りした6月中旬の週末。

 ――雨の時季なのに何で『水が無い月』なんだろうね――
 雨滴に濡れる窓を見てふと口にしたら、静也がこう教えてくれた。『水無月』の『無』は連体助詞になるので、意味としては『水の月』ということになるのだと。

 旧暦水無月は、概ね新暦7月に当たるけど、日本の本州は7月の中旬までは梅雨が明けず、やっぱり『雨の月』である。

 ちなみに、なぜ『梅雨』というのか。

 それは――黴(かび)が生えやすい時季として『黴雨(ばいう)』と呼んでいたが、梅の実が収穫される頃でもあるので『梅』の字を当てて『梅雨』と書くようになったという説と、

 もうひとつは――古代中国では梅の実が熟する頃の雨季を梅雨(めいゆ)と呼んでおり、それが日本に伝わったという説がある。

『つゆ』という呼び方は『露』から来ているらしい。


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七夕伝説 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・13編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

周囲の人間となじめない理沙。そう、実は静也も理沙も友だちがいない。
早くに結婚した彼らだけど、決して世間が良しとする生き方をしているわけではなかった。
彼らと、世間の普通の人たちの間には、深い天の川が流れているのだ。
七夕関連の雑学満載。(7900字)

   ・・・

 まだ梅雨が明けない7月初めの週末。
 いつものごとく静也と理沙は、まったりと家で過ごしていた。

 その傍らにはグラスに入った梅ジュース。
 梅エキスを水で希釈し、氷を入れてかき回すとカランと鳴る涼やかな夏を思わせる音。どこか懐かしい。

 梅ジュースの素となる梅エキスは青梅を一度冷凍させて、その冷凍梅と氷砂糖を瓶に詰めれば10日くらいで出来上がる。疲労回復に効き、健康にも良い。
 暑い日は炭酸水で割るとスカッとした爽やかな味わいになる夏の季節ならではのさわやかな飲み物だ。

 さて、それはともかくとして最近、お腹がふっくらしてきた理沙であるが――

「脚、ちょっと細くなってきたかも……」とちょっぴり嬉しい思いをしていた。
 静也は「ムッチリモッチリな太ももがいい」って言うけれど、やっぱり細く美脚になりたいのが女心だ。

 しかし、理沙のこの嬉しそうなつぶやきに、それは気のせいだぞと静也は心の中で異を唱える。
 太ももが細く見えるような気がするのは、単にお腹がふっくらしてきたから、相対的にそう見えてしまうだけだ。

 それどころか――
 こう言っては何だが、太ももは以前よりも、さらにムッチリ感が増してきた気がする……。

 太ももふっくら、お腹もふっくら、ダブルでふっくら!

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七夕の願い [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・14編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

今回はアラフォー独身女・小林和江が主人公。
そう、番外編「お彼岸―アラフォー女子の幸せ」および本編8編目「悩ましき桃の節句」に登場し・・・
妊娠した理沙へマタハラを行ったとして、その夫である静也からも嫌悪されている小林主任だ。
しかし彼女には彼女なりの考え方があるのだった。(4750字)

では、以下本文。

   ・・・

 七夕の夜。小雨に濡れる閑静な住宅街に外灯のぼんやりした明かりの下に姿を現す2階建ての家。

 その玄関口で小林和江は傘を折りたたみ、ドアを開けた。
 靴を脱ぎ上り框に足を乗ると、ある種の緊張感から解かれ、心が弛緩する。

「ただいま」
 和江は台所を覗き、母に声をかける。

「おかえり」
 今年64歳になる母の声と共にコトコト音を立てる鍋の音と夕餉の匂いが和江を包む。

「先にシャワー浴びてくるね」
 早く化粧を落としたい。武装を解き、外でかぶってきた様々なものを洗い流したい。
 和江は踵を返し、浴室に向かった。

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お盆の過ごし方 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

編小説「縁」本編・15編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

お盆が近づいてきた。いつものごとく家で地味に過ごす予定の静也と理沙。それでも楽しく過ごそうとお盆の計画を立てるのだった。お盆の由来、歴史、雑学満載。(4700字)

では、以下本文。

   ・・・

 蝉の声がシャワーのように降り注ぐ8月。

 昔は『葉月』と呼ばれていた『葉が落ちる月』。
 ――『葉落(はおち)月』から『葉月』となったと言われている。

 そう、旧暦8月8日は立秋だ。

 しかし新暦の8月は夏真っ盛り。
 木々の葉は日焼けをしたかのように黒っぽい深緑色となり、茹だるような暑さに何もかもがとろけそうな、そんな季節。

 夕方になっても、ねばりつくような熱気が残り香となって漂う中。仕事を終え、静也と理沙は汗を拭き拭き、黙々と帰途に就く。
 しゃべると、さらに体力を奪われそうだ。

 それでも住宅地に入ると、途中、近所の家々で打ち水を行っているところもあり、心なしかホッとする。
 濡れた路地にわずかながら涼を得られた気分になり、静也は口を開く。

「打ち水って、神様が通るってことで道を清めるために行っていたんだよな」
「……へえ、そうなんだ」

 神様の通り道――ちょっと素敵な話に、理沙も反応する。

「江戸時代から、涼を得るのが目的になったみたいだけどな」
「生活の知恵だね」
「ま、今の時代じゃ、焼け石に水って感じだけどな」

 歩き進めると、再びねっとりした空気が体にまとわりつく。
 妊娠中の理沙は辛そうだ。お腹もだいぶ大きくなってきた。
 あと1週間ほどで産休が取れる。もうしばらくの辛抱だ。

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お盆―家族と共に [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・16編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

理沙と静也のぐうたらなお盆休み。それでも亡くなった家族への思いを抱え、その縁を思う。
少しずつ彼らの過去が垣間見えてきます。
盆棚、ホオズキのうんちくあり。10600字ありますが、ササ~っと読めます^^

では、以下本文。

   ・・・

 13日盆入り。

 蒸し暑さは相変わらず。
 密度の濃い熱気に閉口しつつも、梅雨明けの焼けつくような猛暑から較べたら、幾分やわらいでいた。

 仕事から帰ってきた静也と理沙はまずエアコンを入れ、順番に手早くシャワーを浴びた後、買っておいた電池式の提灯を玄関の靴箱の上に置き、灯りを点けた。
 やわらかい光が語りかけるようにふんわりと広がり、何かとつながったような不思議なものを感じる。

 和室では、敷物を敷いた座卓に、楊枝や割りばしで作った茄子の牛、胡瓜の馬、もう一つ買っておいた提灯と、和菓子のお供え物を置き、盆棚を作る。
 茄子の牛、胡瓜の馬は、精霊があの世から来る時、この世から帰る時の乗り物を表しているのだ。

 これで霊を迎え入れる準備が整った。
「来てくれるのかな」
 理沙は燈った提灯を見つめる。

 この灯りを頼りに霊がこの世に帰ってくるらしい。
 そんな話を聞いたせいか、失くした家族のこと、そして養護施設時代のことが思い出される。

 ――提灯のやわらかく広がる光りが過去を引き寄せる。

   ・・・

 二人が入所していた施設は、親からの虐待や育児放棄で保護された子や、親が病気などで養育できず一時的に預かってもらう形で来ている子が多かった。

 施設の子どもたちは皆、さまざまに違う傷を心に抱えていたに違いない。家族への思いもそれぞれだっただろう。

 静也と理沙は家族を失ったものの、それまでは愛されて育った。親が子どもを虐待するなんて想像すらできない。
 だから施設に入所した最初の頃、泣き疲れた理沙はこんな言葉を口にしてしまった。親がいるという子に「家族が生きているっていいよね」「うらやましい」「私よりはずっとマシだよ」「帰るところ、あるんでしょ」と。

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文鳥―栗の節句 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・17編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

文鳥が我が家にやってきた! そして今後の生き方に思い悩みつつ、過去を振り返る理沙。
文鳥のこと、重陽の節句=別名、栗の節句・菊の節句関連、雑学満載。
シーチキンと玉ねぎのマヨネーズ和えトースト、美味しいよ、お試しあれ。(9150字)

では、以下本文。

   ・・・

 9月初旬。
 昼間は夏が居座っているかのように残暑が厳しくも、朝と夕はいくらかホッとさせられる気候となった。
 蝉の声も幾分か弱まり、刺々しかった日差しも和らぎつつあり、秋の足音が微かに感じられる今日この頃。

「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」

 産休をとった理沙は職場へ向かう静也を見送ると、居間に戻り、鳥籠の中の水を取り替え、エサの残量を確認する。
 そう先日、白文鳥を手に入れたのだ。

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月見に思う丸いお腹 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・18編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

専業主婦VS働くママ。というか静也VS女性職員および福田みすずの会議。
中秋の名月・お月見の由来、歴史など雑学満載。(3200字)

では、以下本文。

   ・・・

 枯れ落ち葉が目につくようになり、秋の気配が色濃くなっていく9月下旬。
 今日の○○市役所総務部広報課では、年に4回発行される市報誌『冬の号』の編集会議を行っていた。

 市報誌では市民から寄せられた意見や詩文なども載せることになっており、静也は『母への感謝』を綴ったある投稿を推した。

 その内容は――

「添加物の入った市販の駄菓子は体に良くないと、母親は毎日おやつを手作りしてくれた。今、自分が健康でいられるのは母のおかげだ」

 ――という心温まるもので、ほかのページで扱う『クリスマス用お菓子のレシピ』とリンクさせて構成してみてはどうかと提案してみた。

 しかし、この投稿を採用することに福田みすずが猛反対した。

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封印された過去 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・19編目
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ついに赤ちゃんが生まれた。
幸せな静也だったが、自分の子ども時代――過去の苦い記憶――イジメ、暴力にまみれた児童養護施設時代が蘇る。

無痛分娩についてのうんちくあり。(10600字)

では、以下本文。

   ・・・

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縁結びの神様 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・20編目
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理沙が赤ちゃんと共に帰ってきた。さて赤ちゃんの名前は・・・。
神無月の意味、縁結びの出雲大社のことなど、雑学も満載(4100字)

では、以下本文。

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タグ:短編小説

帰る家 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・21編目
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今回は理沙の児童養護施設時代の話。
そう、静也もその時代を過酷に過ごしたが、実は理沙もイジメにあっていた。
静也のアドバイスが功を奏し、切り抜ける理沙。
が、理沙を虐めようとした上級生・ボスにも辛い過去があった。(6750字)

では、以下本文。

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クリスマス・コンプレックス [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・22編目。
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

今回はフェミニスト・福田みすずの学生時代の話。
容姿にコンプレックスを持っていたみすずは、美人な妹・さりなにあることをお願いしていた。
男がどうしても信じられない。
みすずの痛い過去とは・・・。(10300字)

では、以下本文。

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厄落としの忘年会 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・23編目。
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アラフォー独身女子・小林和江の人生哲学。(7050字)

では、以下本文。

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紡がれる縁 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・24編目。
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「これも何かの縁」四季をひと巡り。第1部とりあえずの最終回。

でもすぐに2巡目=第2部が始まります。
第1部は四条静也と理沙カップル中心で進んできましたが、第2部からは福田みすずサイド、小林和江サイドの話も、四条カップルを食う勢いで入ってきます。そして番外編で話題になったあの長山春香もいずれ登場します。

と、それはともかく、1巡目の最終話は・・・静也の過去、例の暴行事件から後のお話、理沙に近づいた理由にも触れます。(8500字)

では、以下本文。

   ・・・

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