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大晦日の願いごと [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・2編目。
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

前話「聖夜」 から1週間後の大晦日。
四条静也と理沙がこの若さ(21歳)で健康にこだわる理由、お節の意味が語られます。
2750字・短い話なのでサクッと読めます。

では以下本文。

   ・・・

 聖夜からさらにシンシンと染み入るように冷え込んできた年末。

 勤め先の市役所は休みに入っており、静也と理沙は二人そろって寝坊をしてしまった。
 布団から離れがたく、うつらうつらと二度寝して、起きたのはお昼近くだった。

 理沙は慌ててご飯を炊き、昨日の残りのカレーを温め、それを朝食兼昼食とした。

 ――大晦日なのにカレーかあ。何か情緒に欠けるよなあ……。
 と横目で見ていた静也だったが、カレーの匂いを嗅いでいるうちに食欲がそそられ
「やっぱりカレーっていいよな」と思い直し、食器を用意する。

「あ、そうだ……ラッキョウ」
 これを忘れてはならない。静也は冷蔵庫からラッキョウ漬けが入っているタッパーを取り出す。

 甘酸っぱいラッキョウ漬けは辛口カレーのお供に最高だ。
 その上、ラッキョウはビタミンB1の吸収を助け、疲労回復を助け、スタミナアップさせてくれる健康食材でもあり、殺菌効果もあるので昔から広く利用されている薬用植物でもある。

「いただきます」
 静也は、理沙がよそってくれたカレーにラッキョウを乗せ、かき込む。

 玉ねぎと人参がたっぷり入った栄養満点のカレーだ。
 一晩寝かせ、熟成されているから、昨日より旨い。おまけに辛み成分が体を温めてくれる。

「食べ終わったら、掃除お願いね~」
 理沙がお願いという形の命令を静也に下す。

 掃除は静也がいつも担当している。こだわり屋で凝り性なので、理沙よりも丁寧だ。理沙も安心してお任せしている。

 静也は首を縦に振りながら、カレーを頬張る。
 食べ終えたら、新年を迎える準備を始めなければ。

   ・・・

 ――静也は7歳で母を病気で、8歳で父を交通事故で亡くした。

 静也にとって、小さい頃、家族で過ごしたお正月の記憶ははるか彼方に行ってしまっていたが……
 家族で年越し蕎麦を食べたこと、元日に食べるお雑煮や栗きんとんがおいしかったことは、何となく覚えていた。

 そんな静也から「年越し蕎麦とお雑煮と栗きんとん、これだけは譲れないっ」と念仏のように何度も聞かされていた理沙は、お節の用意にとりかかる。

 お節は大晦日にお供えし、年が明けてから「神様からのお下がり」としていただく習慣がある。

 縁起や願いが込められているお節――例えば、静也が大好きな栗きんとんは金運を招き、『繁栄』を意味する。

 金運・お金との縁はぜひ理沙も身につけたいところだ。

 数種類の具材を一緒に煮しめていくお煮しめには『家族が仲良く結ばれる』という意味がある。

 紅白かまぼこの、紅は魔除け、白は神聖の意味があり、半円形は日の出を表しており、紅白で縁起をかついでいる。

 伊達巻は形が巻物に似ていることから文化の発展・学問の上達を、昆布巻の昆布は『子生(こぶ)』と掛けて子孫繁栄を、黒豆の『豆』は健康を意味する言葉で『無病息災』の願いが込められている。

 どれもこれも捨てがたい願いだけど、正直、お節は1日で飽きる。2日3日続くとゲンナリする。
 だから作り過ぎないようメニューも絞る。

「栗きんとん、黒豆と昆布巻、後はお煮しめでいいかな」

 紅白かまぼこや伊達巻きは、スーパーで売っているものは量が多く、夫婦二人で食べ切るには持て余してしまい、結局、賞味期限までに食べられなくて、捨てる羽目になる。添加物も気になるので、外すことにしている。

 煮豆は「北海道の黒豆を100%使用」「添加物不使用」を謳っているレトルトパックのものを、栗きんとんと昆布巻もデパ地下で買った高品質のものを使う。

 ただ、栗きんとんは静也が心置きなくたくさん食べられるように『栗の甘露煮』を使って量を増やした。

 お煮しめは手作りだ。鶏肉、人参、里芋、蒟蒻、牛蒡、干し椎茸、レンコンを醤油と酒と砂糖とだし汁でじっくりと煮込む。

 理沙は、出来上がったものを重箱に詰める。質素だが、そこそこお正月らしいそれなりの見栄えとなった。

「お節、完成」
 神棚はないので、和室にある小さな座卓の上に鏡餅とお節を置き、神様へのお供えとした。

 あとは、明日のお雑煮用の汁と今晩の夕食も用意しなくては。
 やっぱり大晦日は忙しい。

   ・・・

 黄昏ていた空はいつの間にか深い闇色に塗り替えられていた。
 この時季、日は短く、すぐに夜がやってくる。

 大掃除を終えてお腹を空かせた静也の前には、どど~んと大皿に盛ったエビチリがあった。

「……」

 日本の大晦日の料理として、いまいち情緒に欠ける、とは思ったが、やはり口に出すことはやめておいた。
 これから新しい年を迎えるのに夫婦喧嘩はしたくない。あとで、除夜の鐘を聞きながら『年越しそば』をいただくのだから、その時に情緒を味わえる。

「ネギもたっぷり入れたから、体にいいわよ~」
「……ん」

 理沙の話を聞きながら、静也はエビチリを口に運ぶ。
 プリプリした触感と甘辛のチリソースがたまらない。ご飯が進む。

「前に静也が教えてくれたでしょ。腰が曲がっているように見える海老には『腰が曲がるまで長生きするように』という願いが込められているんだって。お節には入れなかったから、今日の晩ご飯に使ったんだ」

 情緒に欠けているが、理沙の願いが込められたエビチリはなかなかだ。

 静也の気持ちの良い食べっぷりを見ながら、理沙はつぶやいた。

「もう家族を早くに失くすのは嫌だから……」
「……」

「長生きしようね」
「ああ」

 静也は照れ隠しにご飯をかき込む。

 そういえば……理沙はレトルトを利用しながらも、栄養バランスはしっかり考え、食事を用意してくれている。
 今日の夕飯だって、チリソースは市販のものだけど、そこに大量に刻んだネギを入れ、海老は新鮮なものを買って、皮を剥き腸をとって、揚げて、手間をかけていた。
 中華風スープは、椎茸にワカメに人参に白菜と具だくさんだ。
 野菜はいつもたっぷりだし、海藻類やキノコ類も入るよう工夫されている。

 学校の給食や養護施設の食事だって、栄養バランスは考えられて出されていただろうが、静也個人のために作られた料理ではない。
 でも今は、静也のために作られたご飯が食べられるのだ。

 理沙の作ってくれる料理はいつも最高だった。

「ただし、腰が曲がるのは骨粗鬆症だからよ。ちゃんとカルシウムをとって、腰が曲がらないように長生きしたいよね」

 理沙の健康トークに頷きつつも、自分のほうが一足先に、90歳くらいで、理沙や家族たちに見守られながら逝けたら最高なんだけどな~、と勝手なことを思う。

「もちろん病気だけではなく、事故にも気をつけなくちゃね」
「だな」

 大晦日の晩――二人はお互いの健康長寿を願った。





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