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縁結びの神様 [本編「~縁」(短編連作小説集)]

短編小説「縁」本編・20編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

理沙が赤ちゃんと共に帰ってきた。さて赤ちゃんの名前は・・・。
神無月の意味、縁結びの出雲大社のことなど、雑学も満載(4100字)

では、以下本文。

   ・・・

「ただいま~」
 出産から6日後。すっかり秋めき、穏やかな陽光に包まれたこの日、有給を取った静也に付き添われ、理沙は赤ちゃんと一緒に我が家に帰ってきた。

「ああ、やっぱり家が落ち着くなあ~」
 部屋に上がった理沙は、居間の窓際に置いてある鳥籠の中の『ふっくら』と『ぷっくり』に目をやる。

 文鳥たちは餌をつついたり、水浴びをしたりと元気に動き回っていた。相変わらずカワイイ。思わず顔がほころぶ。

 いや、もちろん――何といっても赤ちゃんが一番カワイイ。
 隣にいる静也もさっきから顔が緩みっぱなしだ。

 和室に置いたベビーベッドに赤ちゃんを寝かせ、さっそく理沙は体を休める。
 今、赤ちゃんはとろとろ眠っているけれど、2、3時間おきの授乳がある。そのために夜中も度々起きなくてはいけないのでので、和室に布団を敷き、理沙も昼寝をさせてもらう。
 静也がいるから安心だ。目を閉じると、すぐに眠りに落ちた。

 それから2時間くらい経った頃、理沙はカレーの匂いで目が覚めた。
 昼下がり、少し開けた窓からいい風が入ってくる。

「今晩はカレーだからな。いちおう辛口にしておいたぞ」
 キッチンを覗くと静也が声をかけてきた。

「作ってくれたんだ、ありがとう」
 とたんにお腹が空いてきた。

 なお「授乳中はカレーなど香辛料系の料理は控えるべし」「母乳の味が不味くなり、赤ちゃんが嫌がる」との意見があるけれど――

「関係ない」「香辛料いっぱいの料理を食べるインドやアジア圏の赤ちゃんも母乳で元気に育っている」との反論もあり、カレー好きな理沙は都合良く後者の考えを採ることにした。

 実際に、カレーを食べた後の母乳を赤ちゃんが嫌がれば話は別だけど、そうじゃないケースも割とあるようで、脂肪の摂り過ぎに注意すれば問題はない。

 それよりもママが気分良く過ごすことのほうが大切だ。
「ストレスがたまると、かえって母乳の出が悪くなる」と静也も同意見だ。

 理沙が和室に戻ると、ちょうど赤ちゃんも目覚めたので、お乳をやった後、沐浴させた。
 途中、泣かれたけど、静也にも手伝ってもらい、恐る恐る何とかやり終える。
 おむつの交換を済ませると、赤ちゃんはまた眠りに入ってしまった。

「今のうちに風呂に入ってこいよ」
「そうだね。じゃ、お先に」
 遠慮なく、静也の好意に甘えることにする。

 今日のお風呂は生姜湯。血行を促進させて身体を温める効果がある。
 理沙は浴槽の蓋を開け、市販の入浴剤を入れる。
 ふんわりと生姜の香りが広がる。

「あ~極楽、極楽」
 生姜湯に浸かった理沙は深呼吸する。

 両親の援助が得られない中、育児への不安もあったけど、静也がいろいろ協力してくれている。今さらながら、良き伴侶に恵まれたと思う。

 そこでふと、中学時代に同級生から言われた例の言葉が甦ってくる。
 ――『神様がそう采配したんだよ。二人は強い縁で結ばれているんだよ』――

「縁かあ」
 理沙は入院中に、静也から聞いたある話を思い出す。

 10月を神無月と呼ぶけれど――

 旧暦10月は、日本中の神様が人々の縁組について話し合うために出雲の国(島根県)へ集うので、他の地域には神様がいなくなってしまうことから、そう呼ばれるという説と――
 反対に、神無月の『無』は『の』に当たる連体助詞なので『神の月』という意味だとの説があるのだとか。

 静也は『水無月=水の月』と同様、『神無月=神の月』説を支持しているようだ。

 が、理沙は、神無月の意味よりも「神様が出雲に集まり、全国の人間について誰と誰の縁を結ぶのか相談・会議をしている」という話が心に残った。

 出雲大社は今も縁結びの神様として信仰されている。

「もしかして、静也との縁も神様たちの会議によって導かれたものかも」
 本当に神様を信じているわけではないけれど、素敵な話だなと思った。

 そう、理沙と静也の出会いの確率――二人とも、保護者を亡くし、ほかに養育してくれる親戚がおらず、入所時期はかなりずれているものの同じ場所の養護施設送りとなり、中学校で同じクラス――は縁に導かれたとしか言いようがなかった。

 早くに家族を失くし、天涯孤独となってしまった自分たちであるが、それではあまりにかわいそうだとして、神様がめぐり会わせてくれたのかもしれない。
 となると、これはぜひとも出雲大社に出向き、神様にお礼をしなくては。

「よし、赤ちゃんが成長して、旅行に出られるようになったら、全国の神様が集う10月に出雲大社へ行こう。……って旧暦10月って、新暦だと11月に当たるんだっけ」

 11月だと連休が割とある。気候もいい。
 理沙は未来の計画にちょっとワクワクする。

 と、そんなことを考えていたら、すっかり湯にのぼせてしまった。

 理沙が部屋に戻ると、空は夕方の気配を漂わせ、淡い黄昏色の光が部屋に差し込んでいた。

「お風呂空いたよ」
「ああ」
 赤ちゃんのお守をバトンタッチ。

 静也にもゆっくりとお風呂を楽しんでもらった後、カレーを温め直し、赤ちゃんが眠っている間に、夫婦二人でちょっと早めの夕食を始める。
 昼間、元気に動き回っていた『ふっくら』と『ぷっくり』もお休みモードに入っていた。

「日がだいぶ短くなったよね」

 理沙はハフハフしながら、静也が作ってくれたカレーを口に運ぶ。
 けっこう、おいしい。ラッキョウ漬けとのハーモニーもたまらない。

「そういえば、明日はお七夜になるよな」
 静也は、思い出したようにカレンダーに目をやる。

「お七夜?」

「生まれてから7日目、赤ん坊に名前をつけ、それを紙に書いて、神棚とか仏壇に貼って、産神に報告する日本古来の風習だ。平安時代から行われていたらしいな」

「へえ」

「現実社会では、出生後14日以内に名前決めて役所に届けないといけないんだけど……」

「あ、そうだったね。名前、どうしようか」

 もちろん今までも二人で相談してきた。
 そうしてやっと候補を6つ絞り込んだのだが――

「達也、哲也、和也、元也、勝也、涼也、どれがいいと思う?」

 静也としては『也』の字が入っているだけで充分満足であり、どれも捨てがたい名前だ。

「やっぱり涼也かなあ。さわやかな感じでいいじゃない。涼しい日に生まれたしね」

「じゃ、それにしようか」

 その時、和室にいる赤ちゃんが目覚め、泣き出した。
 赤ちゃんも「賛成」と言っているようにも思え、『涼也』に決まった。

 さっそく理沙は赤ちゃんにおっぱいをやる。
 カレーを食べたので、ちょっと心配だったけど問題なく飲んでくれている。

 ただ、吸う力が弱いのか、まだ飲むのが下手だ。
 だけど段々上手くなるはず。おおらかに構えよう。

 お乳を飲み終えたので、おむつも取り換える。
 赤ちゃんはまた眠る。

「母乳だとゲップにさほど気遣わなくて済むからラクだよね」
「哺乳瓶だと空気が入るから、ミルクで育てている人、大変だな」

 母乳の場合、背中を叩いてゲップしなければ、それ以上叩く必要はなく、顔を横向きにさせておけば大丈夫だ。
 神経質になると参ってしまうので、ほどほどにがんばることにする。
 赤ちゃんの世話は体力勝負だ。

 片付けと皿洗いは静也に任せて、理沙は赤ちゃんを見守る。

 ――お父さんやお母さんにも見せたかったな……。
 そう思うと少し切なくなる。
 静也も我が子を両親に見てもらいたかっただろう。

 涼也を外へ連れ出せるようになったら……来年3月のお彼岸辺り、双方のお墓参りに行こう。

 キッチンから聞こえてくるカチャカチャという食器の音に水の流れる音が重なる。それからキュッと水道の栓が閉まる音。
 静也の皿洗いが終わったようだ。

 静也に何か感謝を示そうと、理沙は部屋の隅に置いてある木彫り棚の引き出しを開け、あるものを取り出す。
 静也が悦ぶことといえば――「やっぱり、これよねえ」

   ・・・

「久しぶりに耳掃除、やる?」
 お皿洗いを終えて和室に入ってきた静也に、理沙が声をかけてきた。手に耳かきを持っている。

 棒の先についている白いフワフワが静也の心を誘う。

 静也は顔がほころびそうになるのを抑えながら、しずしずと理沙に寄っていく。
 そう、お腹が大きかったから、ずっと理沙の膝枕での耳掃除はお預け状態だった。

「きっと、たまっているわね」
 理沙もウズウズしているようだ。大きな耳垢がとれることだろう。

 静也は、ふっくらモッチリムッチリした理沙の太ももに頭を乗せる。

 理沙のお腹はしぼんだけど、太ももはそのままムッチリ感を保っていた。
 耳掃除の終わりになると、理沙はフ~っと息を吹きかける。白いフワフワで耳をコチョコチョする。これぞ至福の時。

 父親になったとはいえ、やっぱり子どものように甘えたい時もある。
 8歳で甘えることが許されなくなった境遇がそうさせるのだろうか。それを馬鹿にしたりせず受け入れてくれる理沙に感謝だ。

 ちなみに……耳掃除のしすぎは健康に良くないが、しすぎなければいいのだ、ということで静也はこの心地よい快感を手放す気はないようだ。

 ということで、四条家の新しい家族は『涼也』(りょうや)と名付けられ――静也と理沙はパパとママになり、新しい縁を手に入れた。

 けれども、この幸福は突然、終わるかもしれない。消えるかもしれない……。
 だからこそ、この暮らしを、この縁を大切に守っていきたい――そんな思いで胸をいっぱいにしたのだった。






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タグ:短編小説
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